苦境のADV業界。ノベルゲームの憂鬱
※ADV=アドベンチャーゲーム
ゲームジャンルの一つであるADV(アドベンチャー)が厳しい環境に置かれています。
厳密に言うと色々と違いがあるのですが、一般的にはノベルゲームと考えて良いのではないでしょうか。
ADVの歴史は古く、犯人は〇スで有名な「ドラゴンクエスト」シリーズの堀井雄二さんがシナリオを手掛けた『ポートピア連続殺人事件』(1983年)、現在も最新作が発売されている「探偵 神宮寺三郎」シリーズ、サウンドノベルというジャンルを生み出した『かまいたちの夜』(1994年)など、『ゾーク』(1980年)から数えると40年近い歴史を持っています。
派生としてビジュアルノベルというものが生まれたり、「逆転裁判」シリーズや「ダンガンロンパ」シリーズといったヒット作品も定期的に発売されています。
ADVは他のジャンルと違い、CG、サウンド、シナリオという3つの要素で成り立っているので、専門的な技術は要らず非常に作り易いジャンルです。その為、同人ゲームなども活発で、そうした中から『ひぐらしのなく頃に』(2002年)といったヒット作品も誕生してきました。
紙芝居と揶揄されることもありますが、その長い歴史の中で、ADVゲームは、ADVでしか実現出来ない独特のシステムを洗練させてきました。
1996年に発売した『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』は、並行世界を舞台にADVでしか出来ない表現を追求したゲームであり、後世に大きな影響を与えることになります。後にその系譜である『STEINS;GATE』(2009年)が発売となり大ヒット。なんかハリウッドで映画されるそうです(すごい)。
しかし、そんなADVが壊滅の危機に瀕しています!
あの任天堂さんを持ってしてもADVを売るのは難しいという認識を持っており、2019年6月「第79期 定時株主総会 質疑応答」では、代表取締役 フェロー 宮本茂さんがアドベンチャーゲームの難しさを語っています。
アドベンチャーゲームに関しては、『ふぁみこんむかし話 新・鬼ヶ島』をはじめ、私も多数つくってきましたが、現在では、制作は結構厳しい状況です。今のゲームは 10 ヶ国語以上にローカラ
イズしており、アドベンチャーゲームでは(一般的にゲーム中の文章量が多いため)ボイスやテキストのローカライズのコストが膨大になります。また、私のような古いゲーマーと比べると若い人
はこのジャンルに興味を持ってくれない傾向も感じています。ただ、アドベンチャーゲームの仕組みというのは面白く、カプコンさんの『逆転裁判』シリーズやレベルファイブさんの『レイトン教
授』シリーズなどではうまく利用されていますので、まだまだ期待はしているのですが、メインストリーム(主流)で積極的につくるのは難しいという背景はご理解ください。
https://www.nintendo.co.jp/ir/pdf/2019/qa1906.pdf
因みにこの直後に『ファミコン探偵倶楽部』が2020年にリメイクされることが発表されてヽ(・ω・)/ズコーになります。
とはいえ、どちらにしてもADVが置かれている環境は決して良いとは言えず、そしてここからが本題ですが、プラットフォームに起因する致命的な問題を孕んでおり、それにより立ち行かなくなっているアドベンチャーゲーム。
現在、主要なアドベンチャーゲームの市場は3つあるのですが、それぞれが微妙に異なりながらも本質的には同じ問題を抱えています。
そして、その問題を解決すべく新たな可能として注目が集まっているのが、
そう、クラウド!
いや、あの金髪の事じゃなくて。
クラウドはADVの救世主になれるのか!?
アドベンチャーゲームの3市場とは?
簡単に言うとこうです。
- 一般的アドベンチャーゲーム
- 美少女ゲーム
- 乙女ゲーム
美少女ゲーム、乙女ゲームは派生的なジャンルですが、サウンドノベルやビジュアルノベルと違い、これらは独立して市場を形成するに至りました。
そしてこれらは全く異なるプラットフォームで展開してきた歴史を持ちます。
一般的アドベンチャーゲーム(CS)、美少女ゲーム(PC)、乙女ゲーム(携帯機)となっており、重なり合っているようで文化圏が全く違うジャンルです。同じなのは何処も苦境ということですね!
それぞれがプラットフォームに合わせた独自の発展をしてきたことで、プラットフォームの移行が極めて難しくなりました。
美少女ゲームはその性質上、PC以外に出せる市場がありません。
かつて一般向けへの移植を前提にした作品作りが行われましたが、それは美少女ゲームの存在価値を自ら破棄する愚行となり、美少女ゲーム市場自体に大きな影響が出たので、最近は移植前提の作品は殆どなくなりました。今でもたまに当たり障りのない作品が移植されていますが、そうした作品が美少女ゲームのスタンダートに来ることもなくなっています。
「Key」に代表されるような泣きゲーなどの系譜も失われており、「CLANNADは人生」などの名言(迷言?)も聞かれなくなって久しいですが、最近プレイした中だと、『きまぐれテンプテーション』、『ココロネ=ペンデュラム!』などは面白かったです。
一方、乙女ゲームは、携帯機(PSP)をメイン市場として拡大しました。その為、VITAへの移行はまだなんとかギリギリ成功したのですが、その後据え置きのPS4への移行は失敗。一旦、VITAへ先祖帰りする顛末を辿りました。そんな中、据え置き/携帯機というハイブリッド機のNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)が発売となり、乙女ゲームの最大手であるオトメイトさんの完全移籍が話題になるといったプラットフォームの大移動が行われたことは記憶に新しいのではないでしょうか。
現在も精力的に乙女ゲームを発売しており、Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)で乙女ゲーム市場の立ち上げを進めています。
クラウドがノベルゲームを救う?
スマホで良いじゃんと思いますが、そう簡単にはいかないこの問題。
スマートフォンで買い切りのADVも数多く発売されていますが、そもそもスマートフォンのゲーム市場自体が買い切りゲームを受け付けないのか、まとまった一つの市場になりません。
ADVはその性質上どうしても携帯機でプレイした方が快適です。特にシナリオの長いゲームだと疲れますからね。
しかし、美少女ゲームの場合、これまでPC市場で展開してきたので全く逃げ場がありませんでした。美少女ゲームも携帯機で気軽にプレイ出来ると便利ですが、かといって大画面でプレイしたいときもあるというのが美少女ゲームの悩ましい問題です。
乙女ゲームはNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)での市場構築を急いでいるものの、そもそもこの手のジャンル自体、これまで意図的に任天堂ハードを避けてきた分、ユーザーからも避けられているのかなかなか定着していきません。
そこで登場してきたのがクラウドです。
「アニメイトゲームス」、「OOParts」はADVの救世主になる?
『アニメイトゲームス』は株式会社アニメイトが新たにお客様に楽しさを提供するWebサービスです。人気乙女ゲームやBLゲームをパソコンやスマートフォンで楽しめるようになるサービスを2019年春より開始いたします。
これらのサービスはアニメイト店舗やアニメイトオンラインショップ等で販売している『アニメイトコイン』を使用して購入することが可能です。また店舗ではWeb上でダウンロードができるダウンロードカードを同時発売、店舗限定での購入特典も予定しています。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001059.000016756.html
「アニメイトゲームス」はアニメイトさんが手掛けるダウンロード/ブラウザゲームという並列プラットフォームで、作品によって違っています。ブラウザゲームの場合、どのプラットフォームからでもアクセスさえ出来れば問題なく遊べるので、パソコンやスマホなどライフスタイルに合わせて楽しむことが出来ます。
「アニメイトゲームス」の特徴的なところは、ダウンロードゲームの場合でも、初回特典などが付くということです。コンビニにゲームのダウンロードカードが販売されているのを見たことがあると思いますが、あれの乙女ゲーム/BLゲーム版です。アニメイトさんの店舗や池袋にも店舗があるステラワースさんなどで販売されており、普通はパッケージソフトにしかない特典を、DLカードを買った場合でも貰えるという全国に店舗を展開するアニメイトさんにしか出来ない力技。
名作『DYNAMIC CHORD』など、honeybeeさんのタイトルや同人ゲームもカバーしており、パソコンを持っていなくて同人ゲームがプレイ出来ないという環境でも、ブラウザゲームでプレイすることが出来るので、女性向けプラットフォームとしては非常に有難い存在となっています。
美少女ゲームにもクラウドプラットフォームの流れが来ています。
現在、ベータ版をテスト中の「OOParts」さんでは、幾つかのタイトルがプレイ出来るようになっており、その中にはTactics往年の名作である『MOON.』もあります。
この『MOON.』こそ、後の「Key」を設立する主要メンバーが勢揃いし開発された原点の作品であり、その方向性は「Key」と聞いて思い浮かべる感動的な泣きゲーとは正反対。とはいっても確かに根底にはKeyの個性が色濃く反映されており、その系譜は後の作品に受け継がれていきます。
Tacticsはその後、大傑作『ONE 〜輝く季節へ〜』を生み出し、そこからKeyへと繋がっていくのですが、この当時はADVも試行錯誤が活発で、メーカーのこうした路線変更も多くありました。スタジオメビウスが『悪夢』→『SNOW』といった大転換を果たして悔い改めたりとか……。
話を戻すと、現在プレイ出来るタイトルとしては、他にOVERDRIVEさんの『MUSICUS!』(体験版)、NEKO WORKsさんの『ネコぱら』などがあります。
勿論、横持ちプレイに対応。
管理人はiPhone8でプレイしてみたのですが、概ね通常の美少女ゲームと変わらない感覚で遊ぶことが出来ました! PCと併用出来るので気ままに遊べます。
後は、今度正式リリースとなった場合、どのようなタイトルが追加されるかですね!
美少女ゲームは最盛期だと月50本くらいパッケージソフトが発売されるという異常なバブル時代がしばらく続きました。月30本以上という時代が10年は続いたと記憶していますが、何が凄いって美少女ゲームは発売日が月末の金曜に集中しており、その本数が月末の金曜に一気に発売されるという常軌を逸した市場。
おかげでその日は秋葉原のソフマップなどに行列ができ、一目で分かったのですが、今となっては懐かしいですね!
かつては大作の深夜販売も行われていたのですが、因みに管理人もかつて秋葉原で行われた『ToHeart2 Another Days』の深夜販売に行ったことがあるのですが、深夜に購入しても結局帰れるのは始発で、その後に睡眠。プレイ出来るのは普通の時間帯という無意味な結果に……。
そうした時代もあった美少女ゲームだけに、とにかく作品本数が膨大で何千タイトル、恐らく1万タイトル以上あると思いますが、それらをどれくらいカバー出来るのかがポイントになりそうです。特に名作と呼ばれるような作品や、それこそ「Key」のタイトルや『MOON.』のような作品は知名度もあるので、ある意味プレイ機会もあったりするのですが、『要!エプロン着用』のような自分以外憶えている人がいないのでは? みたいなマニアックなタイトルがどれくらい入ってくるのか楽しみです。
闇に消えていったタイトルが多いだけに掘り起こしに期待です!
OOParts ベータ版リリース!🎉
新規タイトルも追加!✨事前登録したユーザーに加え、このアカウントをフォローすると抽選でベータ版をプレイ可能!#もう一度遊びたい美少女ゲーム で思い出のゲームをツイートすると正式版にラインナップされるかも!?https://t.co/e5HmMa2pak#OOPartsGame pic.twitter.com/6eVza5GhFz
— OOParts – 美少女ゲームをあらゆるデバイスで (@OOParts_JP) November 22, 2019
Twitterの公式アカウント(@OOParts_JP)をフォローすると、抽選でベータ版のテストに参加することが出来るので、気になる人は是非フォローしてみましょう!
クラウドなのでWi-Fi環境でのプレイが推奨となっていますが、端末の推奨環境としては現在のスマートフォンであればandroidでもiPhoneでも問題なく遊べます。ベータ版のプレイに参加すると、「Discord」のコミュニティで運営からお知らせを受け取れたり、気になったところなどの改善や要望を出したりといったことも可能となるので、ADV業界を活性化させたい! という人はどんどん参加しましょう。
濃厚な「物語」体験こそADVの強み
マルチエンディング方式などはADVならではのゲーム構造ですが、一般的にゲームがゲーム性を強化していくことを進化の前提にしているのに対して、ADVは物語体験を阻害する要素を極力排除していった為にどんどんシンプルになっていきました。
「逆転裁判」や「レイトン教授」など、一般的なアドベンチャーゲームはまだまだゲーム性を残していますが、美少女ゲームや乙女ゲームはその限りではありません。
例えば『ときめきメモリアル』や『Piaキャロットへようこそ!』といったゲームの場合、主人公の能力を上げていく事でヒロインが攻略可能になります。魅力や学力、ときにアルバイトで資金を貯めるといった攻略要素などを持っていました。しかし現在の美少女ゲームや乙女ゲームは大半が特定の選択肢を選ぶのみといった非常に簡素なシステムになっています。だからこそ遊べる作品に定評のあるアリスソフトさんやエウシュリーさんなどに多くのファンが付いているということもあります。
その良し悪しはともあれ、クラウドゲームは良く遅延の問題が取沙汰されますが、FPSやアクション性の強いゲームと違いADVであれば快適なレスポンスさえ維持可能であれば問題になりません。なによりプレイヤーをパソコンに縛り付けていたプレイ環境から脱却出来るというのは何よりの利点です。日本ではただでさえゲーム機の据え置き離れが進んでいるので、そうした点からもパソコンオンリーの環境は閉塞感が漂っていますからね。
苦戦しているADVですが、しかし「物語」に特化したADVでなければ味わえない濃厚な物語体験を持っているのも事実です。
そこはやっぱり運営型のアプリゲームでは決して味わえないものがあります。生きる道を模索しているADV。
パッケージソフトがなくなるということはないと思いますが、クラウドが第3のプラットフォームとして救世主になるときが来ている!
とりあえず懐かしのプレイしたいタイトルとしては、『アキバ系彼女』(2003年)とか。これもまた泣きゲーの影響を大きく受けたタイトルだったネ……。